「じゃ、また明日ね。」
友人たちとの分かれ道。唇をつり上げて、目尻を下げて、一生懸命手を振って。遠くなっていく友人の背から目を離してふと見ると淡い色をして今にも沈みそうな太陽が目に入った。この寒い季節、元気をなくしたかのような太陽はやたら柔らかい。ゆったりと、でも確実に山のほうへ隠れていくと、対照的に今度はとげとげしいほどに輝く星々がぽつりぽつりと現れた。胸をはれるかな。ふとそんな言葉が頭をよぎって目をそらす。もう友達とも別れたのだから笑わなくていいんだ。そんな言葉も現れて、私は振りきるように早足で歩き出した。

***

街も学校も家もどこかに置いてきた。滑り台の上で星を見ていたら、そんな気持ちが、妙な冷静さと共にあふれてきた。置いてきて、そして私は?みんな進路がわからなくていらいらモヤモヤしてる息苦しい学校。いつもなら何ともないのにちょっとした大きな音すら不快になってしまう街。きまずくすれ違ってばかりの家。そんな頭のいろんなところから入り込んでくるノイズをどこかに置いたら、残るものはなんだろう?
「わすれちゃったかも。」
手を振り上げたオリオン座にそう苦笑すると、涙がこぼれそうになった。
「なに?息吹忘れ物したの?」
振り向いたら君が滑り台の階段に腰掛けてクリーム色のアイスクリームをぱくぱく食べていた。あわてて頬に手を当てるが水滴は見あたらずひとまず安心。
「なんでアイスなんか食べてるの。」
「だって冬に食べるアイスおいしいじゃん。」
「それは認めるけど。」
だろ!となぜか勝ち誇るように君が笑う。そして、でもな、えーと、と具合が悪そうに笑いながら眉をしかめると「さすがに寒くなってきて今ちょっと泣きそう。」と困ったように目を細めた。
「半分食べる?」
「しょうがないなあ。ほら貸して。」
奪うようにアイスを手にとって口にする。口の中に甘いバニラの香りとアイスの独特の甘さがひろがって、そして一気にからだが冷やされていく。木枯らしの鋭さがさらに増して頬や指先に突き刺さる。寒さにほだされてひもじいような気持ちになったり、こんな寒空の下で君とアイスを食べていることがおかしくて、星々が切なくて、いろんな感情が押し合う。
「馬鹿、やっぱりこんなの食べたら寒いよ。寒すぎて、なんか泣けてきちゃうよ。」
「そうだな、なんか泣けてくるな。」
気がついたら頬が濡れて、一気に凍り付かんばかりに冷えていく。そういいながらも泣いてるのは私だけで君は微笑んでいた。

***

「一人で泣いてるとでも思った?」
「さあね。」
ひとしきり泣いたら全身の力が抜けて、なぜだろう、自然に笑顔や余裕が出てくる。素っ気なく答えた君が背中に寄りかかる。
「でも、泣いててもよかったよ。冬の空はいつでも一緒に泣いてくれる。」
「え?」
「こいぬ座のゴメイザは”涙ぐむ目”って意味だし、プレアデス星団の星の一つだけが見えづらいのも泣いているからって伝説もあるだろ?それに加えて地平線近くの星は大気の影響を受けて泣いてるかのように揺らめくからな。」
「だから一人でも泣いてもいいっていうの?単純だし案外無責任ね。」
泣きはらした頭でぼんやりそう答えたら、君の背中が丸くなって、そうかもね。とだけ答えた。
「でも俺は一緒に泣けないからさ。今はそう、騙されてて。」
らしくもなく、ぼそりとつぶやいた君の言葉が、その意味を特に考えることもなく、心のどこか深くにしまい込まれる。
「うん、わかった。」
「そっか。ありがと。」
星雲や大気に隠されて、泣いているように揺らめくことしかできない星も、思いっきり泣いた後は、空を切り裂いてしたたかに輝けたらいいな。そんな夢を少しだけ見て、そんな夢を見せてくれた君に少しだけ背中を預けて、今度こそ私は自分の中の光を探した。

 


β CMi
ゴメイザ
『涙を流せる場所がある幸せ』

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