聖夜の奇跡、バレンタインの奇跡。なんだか特別な日にしか奇跡を起こしてはいけないみたいで、天使の私としては複雑な心境なのよね。「クリスマスに夢を見せてあげましょう。特別な日なら奇跡が起こってもいいなんて夢見てる人間も、かわいいものじゃない。」って同僚の子は言うけど、私はそんなどうでもいい都合に付き合うなんてごめんよ。私は助けたい人を助けたいときに助けるの。ほら見て、あの路地裏を歩く女の子。真っ赤なコートに紫のマフラー巻いていかにも自信満々って感じ。と思ったら道端のコンクリートの塊を思いっきり蹴っ飛ばそうとしたのに、塊がびくともせずにいたがってるなんてちょっと滑稽ね。

「なにがクリスマスよ。クリスマス需要に懸ける各業界に振り回されてばっかみたい。」

あらあら、素直に嫉妬してもいいのにおまけに腹黒いわ。私はパソコンを開いて同僚天使の共有データフォルダを開いた。あちゃあ、あの子、まともな恋愛してないみたい。強気なのに夢見勝ちで、つい「運命の出会い」だと思っちゃう。ふむ。腹黒いのにロマンチストで、男に求めるレベルが高い。そして今さっき、夏に「運命の出会い」をした彼氏にふられたばっかり。こういう子こそ奇跡の起こし甲斐があるってもんよ。今日は12月22日仏滅。うん、絶妙に奇跡日和。誰が何と言おうと奇跡日和。

私はそっと飛んで彼女に近づき運命の赤い糸をたぐりよせた。とりあえずこの糸を……しばらくカボチャにでも結び付けておこう。すぐに新しい相手に結び付けたら学習しないだろうし、大好物って書いてあったし。好きなものたくさん食べて元気出しなさいよ。よい一日を!私は彼女にそう告げると、今週のレポートを提出してないことを思い出してそそくさと天上へと戻った。

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おかしい。今日は絶対におかしい。

朝っぱらからカレにふられたのも、石ころだと思ったらコンクリートの塊で思いっきり足を痛めてツイてないし、道端でかぼちゃを持って走ってた男の子にぶつかるし、八百屋の前を通ったら泣き腫らした私の顔見たおばさんがこれでも食べてってカボチャ譲ってくれたし、定期的にどこからともなく小さいカボチャが飛んできて痛いし。そして今、ジュースを買おうとしたらカボチャスープ以外売りきれてる。

仕方なくカボチャスープを買い、公園のベンチに腰かけると私は大きくため息をついた。

「なんなのよ今日は、、、。」

確かに私はカボチャが好きよ。カボチャの煮物なんて食べるとほっこりして気持ちが落ち着くし安心するし。でもこれじゃあ、ついてるんだか、ついてないんだかわかんないわ。一時間ごとに飛んでくるカボチャは痛いし、もうトラウマになりそうだもの。なんなのだろう、信じたくないけどこれって奇跡ってやつなの?こんなはた迷惑な奇跡ってあるの?いやでも今日は12月22日とかいう至極中途半端な日だし仏滅だし、そんなことあるはずがない。いい男には縁はなし、縁があるのはカボチャだけなんて悲しすぎる。でもここまで逃げればきっと大丈夫。この辺はあまり来たことないけど八百屋なんてないし、もうカボチャに付きまとわれることもないはず。と顔をあげたとき私は絶句した。遊具のデザインがカボチャの馬車。おまけに唖然としてたらまた頭上にコツンと小さなカボチャが降ってきた。

私は声にならない声をあげて家に逃げ帰った。

暗い部屋、布団のなかでカボチャに怯えているとなんだか悲しくなってきた。カボチャから逃げてしばらく忘れていたけど、私ってふられたんだよね。なんだか散々だわ。また運命の相手じゃなかった。もう今度から、ちょっと優しくされたくらいで運命の相手だなんておもっちゃうのやめよう。ううん、もう恋なんてしないわ。恋の神様がいたとしても、きっと私なんかには見向きもしないだろうし、運命の赤いいとがあったとしても、きっと遊び半分でカボチャと結びつけられているんだわ。そんなのってあんまりよ。悲しい。悲しくてしかたがない。私はしとどに枕を濡らした。

どれくらい時間がたったのか、よくわからない。頭がいたくて、目がいたくて、昼間カボチャがぶつかった場所がずきずき痛んで意識がうつろになっていたら呼び鈴がなった。重たい体を起こして扉を開けると、手に男物とは似ても似つかないかわいい弁当箱を手に持った見慣れない男がたっていた。

「こんにちは!カボチャの煮物、作りすぎちゃっておすそわけに…ってどうされたんですか。」

…うわ、またかぼちゃがきた。

「それは、災難でしたね、偶然とはいえ、カボチャを持ってきちゃってなんだかすみません。」

キッチンから男の声がする。私はソファで体育座りでぼんやり虚空を見ていた。あのあと、ついよくわからない涙が溢れて、その男に寄りかかってまた号泣してしまった。とにかくあんな大きい声で泣いたら近所迷惑だし、男も帰るにも帰れずいたたまれなかったのか、しばらく家でなだめてくれたあと、なぜか今私のご飯を作ってくれている。彼はアパートでお隣さんらしかった。変な子って思われたかな。ふられたことだけいってしおらしくしとくんだった。そんなどうでもいい思考が淡々と私の頭のなかに浮かんでは消えた。

「どんなにつらくても、ご飯はちゃんとたべたほうがいいですよ。お節介かもしれませんが、お節介ついでにどうぞ。」

食卓に暖かいご飯と、焼いたアジと、味噌汁とカボチャの煮物が並んだ。どうぞ、と手をさしのべて、彼は目の前に座って私の様子をみていた。つくづく、今日という日はおかしい。彼氏にフラれて、カボチャに降られて、なぜか今はぱっとしない弱気そうな男がカボチャの煮物持ってきて今ご飯作ってくれた。初対面なのにここまでしてくれるなんて、何か下心とかもあるかもしれないけど、残念ながらタイプの男ではないのよね。そんなことを思いながら、私は恐る恐るカボチャを一口、口に入れた。カボチャのいい香りと、あまさ控えめなつつましい味が口一杯に広がって、なぜか胸がきゅうんとした。

「…おいしい。」

「でしょ?」

男の笑った顔と口のなかに広がる懐かしい味を見ていたらなぜか胸がつまって、今日ふられたことも、カボチャに追いかけ回されたことも、なんだかそういう奇跡だったような気がしてきた。そうそれはきっとそういう奇跡だったんだ。これはそういう「運命の相手」なのだ。だって人生でここまでカボチャに追い掛け回されたことなんてないもの。特別な日で舞い上がってるわけでもない、なんでもない日の奇跡の方が、なんだかよっぽど奇跡らしい。

そんなバカバカしい思考がもっともらしく思えるほど、この煮物は美味しかったのだ。

「じゃあ僕はこれで。」

申し訳なさそうに帰ろうとする彼の袖を黙って引っ張った。ちょっと恥ずかしそうに目線を伏せて、ちょんちょん、とそれを引っ張って振り向かせたところで上目づかいで話しかけるのがコツなのである。

「今度美味しいカボチャケーキとか、できたら、お礼におすそわけしてもいい?」

料理なんて本当は苦手だけど、もう一回夢を見てもいい気がした。

なにも特別な日じゃない、なんでもない日、しかも仏滅で、かぼちゃが結んだ縁なんて本当にロマンの欠片もない運命だけど。

よくわからないけど、今はそんな要素の方がいつもよりもずっと、運命の恋人を見つけたような気持ちになれたのだ。

「いつでもどうぞ。」

彼の優しい笑顔を見たら、やっと今日という日が始まって、恋の神様にも見向いてもらえたような気がひしひしとした。

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提出物をすませてすっかり忘れていたあの子を雲間から見たら、なぜか男の子と一緒にいる。私の計画だと今ごろ一人、大喜びで山ほどのカボチャ食べてるはずだったのに。カボチャとの赤い糸がなんだかいろいろ誤解されているようだけど、そういうしたたかさ、嫌いじゃないから赤い糸をお隣さんにそっとカボチャから結び変えておいてあげよう。せいぜいカボチャ料理ばっかり作って彼を困らせないようにしてあげなよ、とそっとささやいたけど、きっと彼女には聞こえてないわね。今もほら、嬉しそうにベッドでカボチャ抱いて寝っころがってるみたいだし。報告書にはカボチャのことはなかったことにして、はじめから彼と赤い糸を結んだように書いて真面目に仕事したことにしとこう。よし、私もクリスマスのお仕事も終わりってことでめでたしめでたしね。

 

 

(* ・ω・)<このショートショート、実は4年前くらいに書いたやつだったりする。時期外れとか気にしたら負けだぞ!(笑)

 
noteにも掲載中。

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