あの子の真っ黄色な傘が、どんより曇る空を振り払う。あの子の真っ黄色の傘が、私を責めるような雨を振り払う。あの子の真っ黄色の傘は私の大好きな元気色。

昼から降り出した雨は、放課後のチャイムが鳴っても止みそうにない。クラスメイトが口々に恨み言をいいながら帰っていく。それを聞きながらロッカーを開けて私も肩を落とした。いつも置いているはずの折りたたみ傘はこの前の雨から家に持って帰ってそれきり
だ。

「帰らないの?」
「うーん、止むのを待ってみようかな。」

斜め前の席にいるあの子を少し横目で見ながら友達にそう答えたら”いつもなら迷わず走って帰るのに珍しい”と笑われて、しばらく話したらその友達も帰っていった。

 

教室にはあの子のシャープペンシルの音と、雨音だけが取り残されている。

「あ、あのね、あやかちゃん。」
なんだかいたたまれなくて声を掛けるとあの子の肩がぴくりとはねあがった。そして私以外居なくなった教室に動揺しているみたい。”びっくりさせてごめん!”と謝ると彼女は少し微笑んで”わたしこそおどろいてごめんね”と小さな声で会釈した。
「傘、忘れちゃって。いれてほしいんだけど、いいかな。あやかちゃんが帰るときでいいから。」
「ほんとはね、あやかちゃんの傘にずっとあこがれてたんだ。」

いれてもらえたその傘を見ているとすこし恥ずかしくて、でもきちんと伝えたいような気がして、雨音に負けないようにそうはっきり口にした。あやかちゃんは少し照れくさそうに肩までのばしたまっすぐな髪を揺らした。
「ありがとう。私、本当はくっきりした色って苦手なんだ。でも雨の日にこの傘を見ると少しだけ元気が出るからお気に入りなの。」

持ってみる?といわれて私は首が痛くなりそうなほどにこくこくとうなずいた。あこがれの傘は太陽よりも明るく鮮やかな黄色。少し暗くなった通学路を照らしていつもの道にしてくれる。うっとおしいはずの雨音もはじけるたびに楽しい気持ちになれた。けれど空に向けた傘をくるくる回して雨粒をはじいていると何かが物足りない。

首を傾げながら隣を見ると”あの子”がどことなく身体をこわばらせて、目を泳がせながらも口をひらいた。
「こんなこといったら変かもしれないんだけど…。わたし、ずっとみきちゃんといつかたくさんお話してみたいなあって思ってたの。いつも元気いっぱいで、明るくて。」

突然そんなことをいわれて目が点になった。あやかちゃんは斜め前の席だけど、班が違うからあまりきちんと話したことはなかった。私とは違って女の子らしくて、聞き上手で、声まで優しい。そして雨の日は素敵な傘をいつも広げてる。けれどよく考えてみたら、私も見ていたのは元気な黄色い傘だけではなかった。

「そっか、あやかちゃんが持つからこの傘は素敵な色なんだ。」
「え?」
「私もあやかちゃんと友達になれたらいいなって思ってたってこと。」

 

あっという間についてしまった分かれ道で、傘をそっとあの子の手に戻す。あの子はまだ驚いて瞬きをしていたけれど、”また明日ね”というと嬉しそうに目を輝かせて微笑んだ。
「うん、また明日。」

手を振るあやかちゃんを背に雨の中を駆け出す。傘を抜け出すと、それはいつもと変わらない重たい雨と、灰色の通学路だったけれど、少し緊張していた身体には程良く冷たかった。

あの子の真っ黄色の傘は元気いっぱいで、鮮やかで、くっきりとした色。でもあの子が持つと、少し優しい色になる。

この記事を共有する!