ちょっと季節は外れるけど夏の星座であること座のおはなしをば。

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遠い昔のトラキアという場所にオルフェウスという楽人がおりました。彼は優れた琴の奏者でひとたびかき鳴らせば、矢のように走る川も流れをとめ、森のけものも猫のように優しくなったといいます。そんな彼にはエウリディケという最愛の妻がおりました。しかしこのエウリディケはある日彼女の美しさに惹かれて追いかけてきた羊飼いから逃げているうちに、毒蛇にかまれて死んでしまったのです。オルフェウスの底なしの悲しみは彼の足を冥界へといざないました。

妻を連れ戻しに来たオルフェウスを、三途の川の主カロンははじめこそ拒みました。しかし彼の奏でる哀しくも美しい旋律に心動かされ、そっと川を渡らせました。その後冥界を見張る首が三つある猛犬ケロべロスも、冥界に住む亡者や神々もその旋律に頬を濡らしたといいます。やがて冥界の王の元へたどり着いたオルフェウスは懇願します。

「どうか妻を返してください。」

王は固く頭を横にふりましたが妃ペルセフォネの説得もあり、オルフェウスの願いを聞き入れましたが一つ条件を出しました。

「あいわかった。妻を返すことを許そう。しかし地上に出るまでは一度も妻を振り向いてはならぬぞ。」

オルフェウスは天にも昇る喜びで、冥界の険しい道を引き返していきます。早く妻の顔を見たい気持ちを抑えながら、後ろからついてくる足音が本当にエウリディケなのか疑いつつも、地上へと向かっていきました。そうしてほのかな光がさしこみ、出口が見えてきたその瞬間のことでした。

「やったぞエウリディケ!これでまた一緒に…。」

オルフェウスは喜びのあまり戒めを忘れ振り向いてしまったのです。後ろを歩いていたエウリディケは涙を浮かべながら闇の中へ永久に消え去ってしまいました。オルフェウスは再び冥界へ足を向けてももう誰も助けてはくれません。

オルフェウスの絶望は地上へ戻っても消えませんでした。そうしてある祭りの夜、娘たちに演奏をねだられましたが、オルフェウスにはとても聞き入れられません。そのまま怒り狂った娘たちに八つ裂きにされて殺されてしまいました。そのときオルフェウスの抱えていた堅琴は川に流されていき、やがて星座となりました。今でも静かな真夏の夜に、空から哀しくも美しい音色が聞こえてくるといいます。

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これが星の神話が好きな方なら知っているかもしれない、一番メジャーなパターンです。ところでこのお話は悲劇で終わっていますが、実は古典文献では「妻の奪還に成功した」オルフェウスも多く語られているそうなのです。

■成功パターン

(BC5世紀)エウリピデス「アルケスティス」/(BC1世紀)ディオドロス「Bibliotheca Historica」/(1,2世紀)プルタルコス「エローティコス」成功を暗示 など

■失敗パターン

(4世紀)プラトン「饗宴」/ウェルギリウス「農耕詩」/オウィディウス「変身物語」/(1世紀)セネカ「狂えるヘラクレス」 など

この傾向としてはギリシャ人は成功説を、ローマ人が失敗説を語っていることが多いことが挙げられます。そうしてウェルギリウスやオウィディウスといった代表的なラテン文学詩人の失敗説が広がることで、またローマがギリシャを支配した影響もあり、失敗説が広く知られるようになっていきました。

確かに私も農耕詩と変身物語はちょっと読んだけど、成功パターンの本持ってないんですよね(汗)変身物語は特に好きでエコーの話とかよく書いたけど、確かに悲劇率高い。ギリシャ悲劇って有名だけれど、ギリシャの戯曲集とかみてると喜劇も一定数あるんだよね。図書館で10巻くらい並んでいるのを見て「をを!?」となった覚えがあります(笑)言われてみたらローマとギリシャにはそういう傾向もあるのかな。

神話が変わるといえば、開けてはいけないよと言われたパンドラの箱を開けた後、「世界のあらゆる悪いものが飛び出した」パターンと「世界のあらゆるいいものが飛び出した」パターンがあるけれどあれもギリシャとローマの差なのかな。(まだちゃんと調べ切っていないからあくまでなんとなくの予想だぬ)そうして箱の底に最後に残った希望は何を意味するんでしょうね。

神話に限らず身近でも「ハッピーエンド至上主義」と「バッドエンド至上主義」がいるように思います。私はハッピーエンドが大好きだけど、書くのはメリーバッドエンド(本人たちにはハッピーエンドであるバッドエンド)が一番好き。これはローマ人型ということになるんだろうか?ギリシャ人型ということになるんだろうか?

 

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