日暮 秋風起こり (にちぼしょうふうおこり)

蕭蕭たり 楓樹の林 (しょうしょうたり ふうじゅのはやし)

戴叔倫

”日暮れ時に秋風が吹き起こって 楓の林がもの寂しくざわめいているよ”と、なにかとセピア調が似合うもの寂しい秋です。少しずつ渇いていく空気、元気をなくしていく庭の木、夏の壮大さを失って細々と輝く天の川。皆様いかがお過ごしでしょうか。しかし哀愁に浸ってばかりでもいられません!秋は実りの秋であり食欲の秋でもあるのです!というわけで今回は「食欲の秋の星座解説」をテーマとして世界のおいしそう(?)な星座をご紹介していきたいと思います。

■バーベキューグリル

さっそく食べ物を…といきたいところですが、まずは加熱器具からいってみましょう。秋の夜空に一際大きく広がるペガスス座。繊細な秋の夜空を彩る大きな星座ですが、南米北部のギアナの先住民はこの胴体部分の四つの星々をこのように描きました。

ペガスス座。なぜかトカゲっぽい顔になってしまったのはご愛嬌。
ペガスス座。なぜかトカゲっぽい顔になってしまったのはご愛嬌。
ワイルドなバーベキューグリル。
ワイルドなバーベキューグリル。

タイトルにもある通りバーベキューグリルです。これは是非実際に夜空で確認してほしいのですが、このワイルドなグリル、いくらでも焼肉ができそうなほどなかなか大きいんですよ!

■もともと食べられそうな星々

さて、世界の星座を旅しなくても、手元の星座早見等でも食べられそうな星座がいくつか見受けられるかと思います。秋の星座でぱっと目につくのはくじら座、やぎ座、おひつじ座あたりでしょうか。

でもこのくじら座、よーくみると私たちの知るくじらの姿はしていません。くじらはくじらでも怪物である化けくじらなのです。しかもギリシャ神話では勇者ペルセウスが石の姿に変えてしまっているのでかたくてとても食べられたものではありません(笑)

怪物くじらは一体どんな味だったのだろうか。
怪物くじらは一体どんな味だったのだろうか。

くじら座を鯨として描いた星図もあるにはあるのです。1661年のドイツの星図にあるくじら座がその一例ですが…うーん、あまりくじらには見えない…。

1661年Cellariusの古星図。口があんぐり。
1661年Cellariusの古星図。口があんぐり。

次にやぎ座とおひつじ座です。やっとまともなお肉が食べられますね!やぎ座とおひつじ座は、地球から見て太陽の通り道にある星座(黄道12星座)なので名前は馴染み深いかもしれません。星図の一例としてイラストをあげておきます。やぎ座の星座絵は角の長さが違ったり、羽が生えていたりと色々なバリエーションがあります。基本的にはギリシャ神話より下半身は魚なのですが、私のお気に入りは下半身が貝になっているバージョンです。おひつじ座はどれもふわふわに描かれています。(もふもふしたい。)余談ですがおひつじ座のお腹にはボティン、といういかにもまるまる太ったような星もあるのがまたかわいいところ。うお座とみなみのうお座もおいしそうだけれど今回は割愛。

私にはこのバージョンのやぎ座がいつもチョココロネに見える。
私にはこのバージョンのやぎ座がいつもチョココロネに見える。

 

■ぶた

次は豚肉の調達です。これは現代のアンドロメダ座付近にあります。アンドロメダ、というのは古代のお姫様の名前です。とある事件がきっかけでアンドロメダは石に繋がれ、化けくじら(くじら座)への生贄にされてしまいます。鎖に繋がれた姫の目の前に迫ってくる化けくじら!もうだめかもしれない!その緊迫のシーンが星座となっています。ペガスス座のα星から人の字に星座が連なっているし、特に暗い場所では腰辺りにアンドロメダ銀河が白い靄のように肉眼で見えるので比較的見つけやすい星座かもしれません。しかしこの可憐なアンドロメダ座、中国の星座では奎宿(けいしゅく)といい、豚?や豚のまたぐら?となっています。その位置はアンドロメダ座の胸から腰、左腕へかけてのあたりでしょうか。ただでさえ可哀そうなお姫様なのに豚と呼ばれるなんて不憫…。でも大丈夫。物語ではこのアンドロメダ姫、そばに通りかかったペルセウスに助けられ大団円となります。(豚の汚名は解決していないけれど:汗)

アンドロメダ姫。胸のあたりに魚が襲い掛かっている星図もある。
アンドロメダ姫。胸のあたりに魚が襲い掛かっている星図もある。

 

■ラクダ、トナカイ

うん。食材か怪しくなってきましたね(汗)先に今の星座を見ておきましょう。

食料(?)が隠れているのはカシオペア座のあたりです。

10世紀のカシオペヤ座の星座絵。余裕のほほえみが特徴。
10世紀のカシオペヤ座の星座絵。余裕のほほえみが特徴。

北極星を探すのに便利な星座でもあるので、プラネタリウムや理科の授業でも聞き覚えがあるかもしれません。このカシオペアは、先ほど出てきたアンドロメダ姫のお母さん、つまり王妃様です。中世以降のカシオペヤの星座絵は椅子に座って、枝と羽ペンを持ち両手を上げてびっくりしている絵がメジャーですが、10世紀のペルシャのal-Sufiの星図ではこのような王妃らしい風格があります。そして他の国ではこのように描いていました。

A.ラクダ(中東) B.5匹のトナカイ(シベリア)
A.ラクダ(中東)
B.5匹のトナカイ(シベリア)

中東ではカシオペヤ座に加えて、アンドロメダ座、ペルセウス座からも星を拝借して一匹のラクダを描いていたようです(図A)。それでこの原稿を直していた時にふと手が止まったんです。「あれ、ラクダって食べられるんだっけ……?」って。同じ疑問を持っている方もいらっしゃるかと思います。私も調べてびっくりしたのですが、ラクダのこぶって食べられるらしいんです!しかも日本で!しかも鳥取で!なんでも鯨肉に食感が似て意外とあっさりしているとか牛肉っぽいけどあっさりしているとか。

もう一つのカシオペア座のW型に並ぶ星座の見方として、シベリアの5匹のトナカイというものがあります(図B)。トナカイ肉は北欧ではメジャーらしく(?)クセがなくあっさりしていて煮るもよし焼くもよしカルパッチョにするもよし、だそうです。むむむ、ラクダも気になるけどトナカイの料理写真がどれもおいしそう…。

 

■ごちそうさま?

最後に今回省略した魚について。秋の夜空はみずがめ座、うお座、おひつじ座(下半身が魚)など、水に関する星座が集まっています。(なので、魚はたくさん食べられそうです!)その理由はこれらの星々のあたりを太陽が通過する頃、星座の生まれたメソポタミアでは”あ、そろそろ雨期が始まって洪水が起こるんだな”、という目印になっていたからです。エジプトでも明け方に見えるこれらの星々を見てナイル川の氾濫が近いことを知りました。さしずめ絶対に忘れない夜空の備忘録といったところでしょうか。

いかがでしたか?おいしそうな星座はありましたでしょうか。そろそろおなか一杯になってきたので食欲の秋の星座解説、ひとまずこの辺にとどめようかと思います。秋の夜空を眺める機会があったら、話題にするなり、ふと思い出すなり、おいしく料理してもらえると幸いです。

 

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